歯医者さんが教える、正しい消毒薬の選び方
歯医者さんには、色々なお薬が置いてありますが、気になったことはありませんか?
今回は、そのお薬の一部である「消毒薬」についてお話ししていきましょう。
名古屋市瑞穂区の歯医者「鈴木歯科クリニック」歯科医師の鈴木良典です。
チェアの清掃に用いる消毒薬や、床に用いる消毒薬、使用した器具の清掃に使う消毒薬は、全て違うモノです。
それぞれ分けなければいけないのには、理由があります。
標準予防策(スタンダードプレコーション)とその概念
スタンダードプレコーションとは、「全ての人は感染・伝播する病原体を有している」を前提とした概念であり、
- すべての患者の血液・唾液などの体液(汗を除く)を感染性のものとみなして対応する
- 傷のある皮膚、粘膜も感染性のあるものとして対応する
これらは、患者さん同士の感染防止や患者さんと医療従事者間の交叉感染を防ぐ考えです。
具体的な例を挙げると、器具の適切な消毒、滅菌、医療従事者の防護、医療機器のディスポーザブル化(使い捨ての小さい器やブラシなど)が挙げられます。
歯医者さんの清掃の流れについては前回のコラムでお話しさせていただきました。
今回は、そこでお話ししきれなかった消毒薬に的を絞ってお話ししていきます。
スポルディングの分類に基づいた消毒剤の選択方法
前回のコラムで出てきた「スポルディングの分類」をもとに、どの消毒薬がその場面で適切かがわかります。
分類 | 消毒薬 | 環境 | 金属 | 非金属 | 手指皮膚 | 粘膜 |
高水準消毒薬 | グルタラール | × | ◯ | ◯ | × | × |
中水準消毒薬 | 次亜塩素酸ナトリウム ポピドンヨード 消毒用エタノール | ◯ × ◯ | × × ◯ | ◯ × ◯ | × ◯ ◯ | × ◯ × |
低水準消毒薬 | ベンザルコニウム塩化物 クロルヘキシジン酸塩 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
上記図を見ながら具体例を出すと、
例えば、清掃したい箇所が「ステンレスの机」等金属であった場合、金属に使用が不可である次亜塩素酸ナトリウムは使えませんね。それ以外の消毒薬が適応となりそうですね。
金属には、グルタラール、エタノール、低水準消毒薬の選択肢が選べますが、どちらを用いれば良いのでしょうか。
それは、汚染されている度合いと、その後使用するその器具の「使用目的」によって選択をすることができます。
そのステンレスの机が、患者さんの血液や、吐瀉物などで汚染されていたら、高水準グルタラールを使用する必要性が出てきます。
一方で、血液等が付着しておらず、その他人がそのステンレスの机を触っただけであり、その後もクリティカルなものを置く予定がないのであれば、低水準の消毒で大丈夫です。
高水準消毒薬
抗菌スペクトラム(スペクトル)が広い消毒薬で、ほとんどの細菌ウィルスに有効です。
グルタラールが代表で挙げられます。グルタラールは殺菌能力が高く、一般細菌はもちろん、結核菌や芽胞をもつ細菌にも有効です。HIVやコロナウイルスなどのエンベロープ型ウィルスや、ノンエンベロープ型(小型球形)ウィルスのノロウイルス(牡蠣などに含まれます)にも有効です。
ただ、消毒効果が高いということは人間や動物にとっても毒性が高いということであり(為害性が高い)、手指消毒や粘膜には用いることが禁止されています。
中水準消毒剤
主に一般細菌、結核菌、真菌に対して有効です。
ご家庭でも、しっかり消毒をしなければならない場面では用いることがあります。
次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、消毒用エタノールなどが分類されます。
次亜塩素酸ナトリウム
中でも次亜塩素酸ナトリウムは消毒効果が高く、グルタラールと同じように芽胞細菌にも有効ですが、金属の腐食性があるため、非金属にしか用いることができません。
また、混同されがちですが、次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸水とは別物で、区別が必要です。
次亜塩素酸ナトリウムは、アルカリ性でハイターなどに用いられる
次亜塩素酸水は、酸性を示す。不安定であるため、保存に向かない
次亜塩素酸ナトリウムは、生牡蠣を食べたことによるノロウイルス感染の嘔吐、排泄物の消毒に有効です。
使用する場合は、次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)の塩素濃度を200ppmに調整し、食器等は漬け置き、漬け置きできない場所へは消毒薬をペーパータオルに浸し、汚染された床や便器などに貼っていきます。200ppmは、ハイター6%のものに対し、原液10ml:水3Lです。
また、衣類の消毒をする際は、塩素濃度1000ppmで漬け置きするのが望ましいです。1000ppmは、ハイター6%原液50mlに対し、水3Lを加えることで作成できます。
ハイターなど次亜塩素酸ナトリウムは、有毒ガスを発生する為換気には十分気をつけて行いましょう。
ポピドンヨード
ポピドンヨードは消毒効果が高いのですが、酸性度が高く、これを用いて頻回のうがいをすることで歯の表面を溶かしてしまう患者さまを以前はよく散見しました。生体に使用する場合には、アレルギー過敏症に注意することが大切です。
消毒用エタノール
消毒用エタノールは、令和2年から始まった「新型コロナウィルス感染症」で一般の方の注目が更に高まった消毒薬です。
これは、一般的にはエチルアルコールと呼ばれるアルコールで、濃度によって名称が変わります
99.5Vol%…無水エタノール
95.1~96.9Vol%…エタノール
76.9~81.4Vol%…消毒用エタノール
エタノールは薄すぎても濃すぎてもダメで、広い範囲のウィルスや細菌に有効な濃度が76.9~81.4%です。
「ナロク(769)、歯医者(814)」で覚えましょう!
消毒用アルコールを買う際は、裏面のエタノール濃度表示をしっかりチェックして買いましょう!
もう一度、「ナロク(769)、歯医者(814)」です!
私は歯科医師国家試験の時に、実際にこれで覚えました(笑)
また似たような外装の商品で「イソプロパノール・イソプロピルアルコール・IPA配合」などの製品をみかけたことはありませんか?
これは、エノタールが飲めるお酒の原料であるために単体だと「酒税」がかかり割高になってしまう為、酒税がかからないよう飲めないアルコール(イソプロパノール)を配合して作られたアルコール系消毒薬です。そのため消毒用エタノールに比べ若干安価です。
これも消毒用エタノールと同じで70%以上で消毒効果を広く発揮することができます。
しかし、IPAは刺激性がエタノールよりも強い為、手指消毒に用いるよりは、ドアノブなどの環境装備の消毒清掃に用いるのが適切だと考えられます。
低水準消毒薬
低水準消毒薬は、前述の高水準・中水準の消毒薬に比べ消毒効果が低い代わりに、使用できる範囲が非常に広くなります。
金属や非金属、手指消毒や薬品によっては粘膜に用いることができるものもあります。
ご家庭で用いるのにも便利な消毒薬です。
具体例として、ベンザルコニウム塩化物(商品名・ウエルパスやオスバン)いわゆる逆性石鹸があります。
通常の石鹸は陰イオン界面活性剤であり、逆性石鹸は陽イオン界面活性剤である
クロルヘキシジン酸塩もですが、低水準消毒薬は幅広い用途に用いれる代わりに、抗菌スペクトル(バイキンに効く範囲)が狭く、芽胞細菌や結核菌、エンベロープを持たないウィルスには効きません。
しかし、院内感染の多くは低水準消毒薬で消毒可能なMRSAや一般細菌などが主ですので、病院や歯科クリニックでも幅広く採用されています。
まとめ
一般の方が、日常生活で用いる消毒薬は主に低水準消毒薬である。
手洗いを伴わないとウィルスに効かない場面も多い為、飲食店や病院に出入りしなおかつ手洗いのできない場合は、中水準消毒薬の「消毒用エタノール」を用いると良いでしょう。
嘔吐や排泄物には、広範囲の細菌やウィルスに有効な次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)などを適量に薄めて用いることで、感染を広げることを防止できます。
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参考・引用 口腔外科学(医歯薬出版)