保険適応「義歯の磁性アタッチメント」っていいの?
ご飯を食べている時に、お友達とお話しをしている時に義歯がはずれてしまう…そんな話を聞いたことはありませんか?
義歯を顎に安定させる方法はいくつかあり、通常だと残っている歯(以下残存歯と呼びます)にバネをかけることが多いのですが、バネをかけられる歯が1本もない患者様の場合、落ちないように工夫するのは簡単ではありません。
今回お話しするのは、そんな問題を解決する手助けとなる「磁性アタッチメント」についてです。
名古屋市瑞穂区の歯医者「鈴木歯科クリニック」歯科医師の鈴木良典です。
入れ歯を支える方法
入れ歯をお口の中に留めて、外れにくくする力のことを「維持力」と言います。
今回お話しする磁性アタッチメントは維持力を増強させる装置ですが、
維持力を発揮する方法には他にもあります。
- 残っている歯に金属のバネ(クラスプ)を引っ掛けて、外れにくくする
- 歯ぐきと入れ歯のスキマを限りなく減らして、吸盤のように吸い付くようにする
- インプラントを顎の骨に埋め込んで、そのインプラントを使った維持装置をつける
- 磁性アタッチメントを利用する
磁性アタッチメントとは?
磁性アタッチメントは、保険外治療であったためつい先日まで自由診療(自費診療)でしか用いることができませんでした。
この度令和3年9月より、保険収載が決定し保険治療として患者さまに使っていただけることとなりました。
構造
適切な保存処置を行った歯の頭の部分に対し根面板を作成し、ダイレクトボンディング法によって「キーパー」と呼ばれる磁性ステンレス鋼を装着する。
それに対する位置に入れ歯側に、磁石を密着するように埋め込むことで入れ歯がはずれにくくなる
利点
- 強い磁石の力を利用するため、義歯が外れたり落ちたりしにくくなる
- バネを掛けるよりも、残存歯への負担が少ない
- 義歯が回転する動きや、横揺れの動きに強くなる
- 歯にかかるバネがなくなり、義歯の下に磁石がつくため見た目が良くなる
- 外科処置等が不要のため装着、撤去が比較的容易
欠点
- インプラントと異なり、自分の歯のようには噛めない
- キーパー周囲に汚れがつきやすいため、徹底した口腔ケアが必要
- MRI検査でアーチファクト(歪んだ像)を出す可能性があるため、撮影の際には壊して外さなければならない可能性がある(その時に費用がかかる)
- 歯科技工士、歯科医師によってクオリティに差が出る
- 歯の状態や残存歯数によっては、適応外の場合がある
- 一部金属を用いるため、金属アレルギーの方
入れ歯が外れてきて困る、とお悩みの方にはメリットが多いと思います。
適応症例
適応症
厚生労働省の発表では、
- 多数歯欠損症例:9歯以上の部分床義歯、又は全部床義歯に相当するオーバーデンチャー
- 遊離端欠損症例:片側の大臼歯全て又はそれ以上の欠損があるもの
つまり「歯の残っている本数が少ない患者さま」が適応です
義歯を支える歯とするためには歯冠歯根比(以下参照)が1:1以上が理想的ですが、残っている歯の根っこが短い方に特に有効と考えられています。
通常の入れ歯の「バネ」にかける歯とするためには、写真のように、歯の頭(歯冠)に対して、歯根が同じ長さまたはそれ以上でないと適応になりません。
一方、磁性アタッチメントは磁石の力で義歯を安定させるため、その問題が解決されます。
次に、適応外となる場合です。
適応外
- 歯がない方
- キーパー周囲の口腔清掃(歯磨き)を行えない方
- 残存歯の状態が不良な場合
- 歯周病で歯を支える組織に問題のある方
- 根っこの治療(根管治療)の状態が不適切である場合
- お口の中にキーパーや磁石を入れるスペースがない方
- 持病の関係で、MRI検査を受ける可能性のある方
- 金属を用いるため、金属アレルギーの方
- 軟性材料を用いて間接法により床裏層を行った場合は保険適応外
以上の方は、適応外となるため注意が必要です。わからない場合は、担当の歯科医師、歯医者さんに相談してみるのが良いでしょう。
歯周病がある方は、歯周病の治療を先に行うようにしましょう。
鈴木歯科クリニックでは、歯周病の認定医が在籍しております。
かかる費用
今回保険適応となったため、患者さんの負担は磁性アタッチメント1つあたり2000円〜6000円程度で行うことが可能です。(負担割合によって異なります)
例えば、上顎の残っている歯4本にキーパー、それに対する入れ歯の内面に4つ加工した場合、8000円〜24000円程度で装着することができます。
※義歯を新しくする際に行う場合は、別途義歯作成料が必要です。
今は保険適応対象である指定の材料が少ないですが、今後拡充されることによる材料価格の低下を期待します。
それでも、先日まで磁性アタッチメント1つあたり7万円〜10万円(4箇所だと28〜40万円)のお値段でしたから、これ以上は難しいかもしれませんね。
インプラントとどっちがいいの?
インプラントは、骨に直接力が加わるため自分の歯のように噛めますが、磁性アタッチメントを用いた義歯は入れ歯でありますので、自分の歯と同じようには噛めません。
若い頃のように食事を楽しみたい方は、インプラントの方が良いでしょう。一方、食べるものに多くの制限はあったとしても費用を抑えたい場合は、義歯を選ばれるのもひとつの正解ではないでしょうか。
注意点
前述の通り磁性アタッチメントは、磁石を用いるためMRI検査にて歪んだ像(アーチファクト)を発生させます。
また、微量ではありますがMRI撮影時に発熱も起こす(0.5度以下)ことを、磁性アタッチメント導入前に知っておきましょう。
また、磁性アタッチメントの導入には熟練した歯科医師側の技術と、技工士側の技術が必要であるため、磁性アタッチメントの義歯作成に慣れた歯医者さんで行うのが良いでしょう。
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