歯を守るMTAセメント治療の本気
名古屋市瑞穂区の歯医者「鈴木歯科クリニック」歯科医師の鈴木良典です。
久しぶりに行った歯医者さんで、「この歯は、虫歯は大きいので神経を抜かなければいけません」と言われた経験はありませんか?
「その神経処置、待った!」
もしかしたら、あるプロセスを踏めば神経を保存できる可能性があるかもしれません。
その治療法こそ、「MTAセメント治療」です。
今回は、近年注目を浴びているMTA治療について、歯科医師の目線からお話ししましょう!
MTAセメント治療とは
MTAは、Mineral trioxide aggregateの略です。MTAは1990年台にアメリカでpro rootとして販売され、日本へは歯科用覆髄材料として2007年4月にデンツプライ三金から発売されている、30年以上の歴史のある成分です。
現在は、複数のメーカーからMTAセメントが発売されていますが、鈴木歯科クリニックでは以下の2種を使用しております。
①GC(ジーシー)社(日本/JAPAN) NEX MTAセメント(管理医療機器 225AKBZX00062000)
②BISCO,Inc(米国/USA)セラカルLC(医療機器認証番号:225AGBZX00008000)
特徴・適応症
MTAセメントの特徴
MTAセメントは、歯髄治療や根管治療などで、歯の神経や血管を保護するために使用されます。セメントのように硬化する性質があり、抗菌作用や生体適合性に優れています。
MTAセメントを虫歯治療時に併用することで、治療後に痛みが出たり、細菌感染を起こして神経が死んでしまったりするリスクを減らしてくれる可能性があります。
MTAは優れた生体親和性と辺縁封鎖性を有しており,辺縁漏洩による炎症を引き起こすことなく外から神経への刺激を遮断するため,水酸化カルシウムに替わる直接覆髄剤として、その臨床成績が期待されており、その他根管充填、逆根管充填、根管治療時のパーフォレーションの封鎖、根尖部の封鎖等にも応用されています。
MTAセメントの適応症
MTAセメントは、薬事法上での適応は、「抜髄直前の神経に対する直接覆髄」であり、つまり生活歯(生きている歯)に限定されています。
しかし、実際のところはMTAセメントは生体親和性が高いため、失活歯への根管充填や、根尖病巣への歯根端切除時の逆根管充填材に用いることができます。神経の治療済みの歯においての、偶発的な穴(パーフォレーション)をフォローする際にも有効です。
MTAセメントの成分
MTAセメントの主成分は、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3)などの無機質酸化物であり、全体の7割を占めています。これに石膏および造影材として酸化ビスマスが添加されています。MTAセメントの発祥であるポルトランドセメントと比べると、不純物の除去、造影剤の添加など歯科用に適切に改変されています。
硬化・薬理作用
歯科材料を扱う立場として、患者さまにお伝えしたいことがあります。それは、ほとんどの歯科材料が「乾燥状態の歯面」でないと正常に固まらないことが多いということです。我々歯科医師は、その状態を作り出す為にレーザーで止血したり、特殊な薬剤を用いたりとさまざまな方法を試みます。
MTAの硬化反応は、無機酸化物が水や様々なイオンと化学反応して水和物を生成しながら硬化体を形成します。その為、水分の多いお口の中でもちゃんと硬化反応が進行することが利点です。
MTAは、非水溶性のケイ酸化合物を含むこと、析出した結晶が歯の象牙質の細い溝に入り込み「タグ」を形成すること、MTAはやや膨張する性質により、歯面との封鎖性が維持されると考えられています。
MTA硬化体では、ケイ酸カルシウム水和物マトリックス中に、水酸化カルシウムの結晶が分布しており、水酸化カルシウムの溶出によるカルシウムイオンや水酸化物イオンの放出は、MTAの理化学的・ 生物学的特性の基盤となる性質と考えられています。
カルシウムイオンが周囲環境中のリン酸イオンと反応、MTA表面にアパタイト様の結晶析出。ケイ素イオンは、Si-OH 基がアパタイトの核形成、ガラスセラミック材料から出されるケイ素が培養骨芽細胞の増殖や石灰化物形成を促進すると考えられる
新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔健康科学講座 論文・MTA の理化学的・生物学的特性と臨床より
そして、MTAの硬化直後のpHは10と非常に高く、練和3時間後に pH12.5に達します。
ほとんどの細菌はpH9.5で死滅するため、MTAは抗菌成分として歯質内で働きます。(酸化亜鉛ユージノールと同等かそれ以下)
MTAセメントのPHの上昇は、水酸化カルシウム製剤と同様に一時的に歯髄傷害性に働きますが、その傷口には炎症性の細胞浸潤・消退が起き活発な細胞増殖が起こる結果として「被蓋象牙質(デンティン・ブリッジ)」が一層生成されます。
デンティンブリッジは、神経を守ってくれる新しい歯質と考えてもらうと簡単です。
治療成績
2014年にドイツのハイデルベルグにある、ブレヒトカルツ大学が発表した数字によると、水酸化カルシウウムは59%の成功率。それに比べて、MTAセメントは80.5%と明らかに高かったと報告しています。又、トルコのカリスカンによると、MTA使用が85.9%。水酸化カルシウムが77.6%と報告しています。
つまり、MTAの成功率は、約8割といえるでしょう。
費用をかけてMTA治療を選択したからといって、100%歯髄を守れるわけではないことを理解しておきましょう。
とは言え、歯の神経を残すことで歯の寿命が長くなり、歯1本の価値は100〜500万円と言われていますから、歯の神経を保存するMTA治療の費用対効果が高いのは間違いありません。
参考論文
Mente J.et al.Treatment outcome of mineral trioxide aggregate or calcium hydroxide direct pulp capping: long-term results.J Endod. 2014 Nov;40(11):1746-51
Çalışkan MK.et al.Prognostic factors in direct pulp capping with mineral trioxide aggregate or calcium hydroxide: 2- to 6-year follow-up.Clin Oral Investig. 2017 Jan;21(1):357-367
メリットとデメリット(利点と欠点)
どんな治療でも、メリットとデメリットのバランスを考えて、適切に選択することが大切です。
メリット
- 歯の寿命を伸ばせる可能性
- 費用対効果が高い
- 大掛かりな手術が必要ない
デメリット
- その後の被せ物まで保険適応外(1本あたり13万円以上かかります)
- 成功率は8割程度
MTAを選択する前に知っておくべき注意事項
MTAセメントは、材料が高価であるのと、操作にも精密な処置が必要となります。
成功率は8割と高いですが、痛みが出たら神経を抜く処置に移行しなければなりません。
そのタイミングもMTA直後だったり、被せ物まで完全に終わらせた後であったり…。虫歯の状況によって変わるということを覚えておきましょう。
また、治療は健康保険外となり、その後の被せ物も保険適応外となるため、その後の被せ物の種類も担当歯科医師と事前に相談しておくと良いでしょう。
MTAセメントの施術費用
鈴木歯科クリニックでは、
- 切削器具やレーザーによる虫歯除去…21000円+税
- MTAセメント(セラカルLC)…5000円+税
- MTAセメント(GC NEX)…12000円+税
- MTA上部に貼るコンポジットレジン(CR)…サービス0円
- MTAを行った歯への被せ物…例・ジルコニア10万円+税〜
- 神経処置が必要となった場合…健康保険適応
- 総計 虫歯処置+MTA+CR+被せ物費用(自費)
となっております。フローチャートを作りましたので、ぜひご覧ください。
まとめ
- MTAセメントは、神経ギリギリの虫歯がある場合の救世主
- 成功率は8割
- 虫歯除去、その後の被せ物まで自費治療となる
- 費用対効果は高い
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